体表の皮膚の色(カラー)や質感(テキスチャー)は部位により異なります。形成外科では皮膚の欠損はその部位と同じ性質の皮膚で覆うという基本原則があります。これをテキスチャーマッチングといいます。
手でいいますと、掌側と背側では色調や質感に大きな違いがあります。例えば掌側の皮膚には指紋があります。やや硬く、分厚く、そして白っぽい(日焼けしない)特徴があります。一方で背側皮膚には皺が多数あり、柔らかく、薄く、日焼けしやすい特徴があります。また下の組織とはよく動きます。
手背の皮膚が掌側に、手掌の皮膚が手背側にくると、移植した皮膚が目立ちます。これをテキスチャーミスマッチといいます。テキスチャーマッチングは手足の手術では極めて重要な概念ですが、学会発表でもこれが守られていない例を多く認めます。掌側の皮弁を背側に移動させてはいけません。足背の皮膚を手掌に植皮してはいけないのです。
合指症の手術のように指の側面に植皮をする場合には、足背側の皮膚と足底側の皮膚がブレンドする部分から皮膚を採取する必要があります。
皮膚には異方性があります。異方性とは方向によって特性が異なることを意味します。古くはランガー割線という概念があります。ランガー先生は体表にできた円形の傷(フェンシングなどで突かれた傷)が楕円形になることに気づき、その楕円の長軸方向を体全体で調べ、地図を作りました。これをランガー割線といいます。一方皮膚はつまむと皺ができる方向とできにくい方向があります。その皺の線をRTSLといいます。一般的にはRTSLに沿った傷あとは綺麗に治りやすい傾向があります。逆にそれに直交する傷あとは肥厚しやすくなります。
テキスチャーマッチングとRTSLの概念から、ドナー(採取する側)もレシピエント(移植した側)も綺麗になるために、以下のような採取をしています。
傷ついた皮膚を創傷といいます。できた創傷は止血⇒炎症反応⇒細胞増殖・コラーゲンや血管の新生⇒コラーゲンの成熟という過程で治癒します。この創傷治癒の過程で傷あとが引きつる状態になります、これを瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)といいます。
手の外科では直線切開よりジグザグ切開の方が、瘢痕拘縮が起きにくいと考えられています。ジグザグ切開では創内の展開がしやすく、瘢痕の収縮ベクトルが交互に切り替わる利点があります。ただし方法によっては、ジグザグ切開でも瘢痕拘縮は強く生じます。
瘢痕拘縮は動物ではほとんど起きないため、瘢痕拘縮がなぜ人間に生じるのかは実はあまりわかっていません。筋線維芽細胞による収縮作用が関与している可能性があります。そのミクロなメカニズムは解明されていませんが、少なくとも形成外科医は皮膚を薄くすると瘢痕拘縮が起きやすいことを経験的に知っています。含皮下血管網植皮術という方法では瘢痕拘縮は驚くほど少ないことを経験します。これらの経験から、瘢痕拘縮の予防には真皮網状層を損傷しないことが大切だと考えています。
たとえジグザグ切開であっても、網状層を傷つけながら三角形の皮弁を挙げれば、皮下に真皮網状層が損傷された空間を大きく作ることになります。その部分では広範囲に、面状に瘢痕拘縮が起きてしまうのです。一方皮下脂肪を薄く残すと、瘢痕拘縮は起きにくくなります。つまりジグザグ切開でも直線切開でも、皮弁の皮下脂肪をできる限り残すことがポイントだと考えています。これはZ形成術やW形成術でも同じことです。またW形成術では瘢痕の一部をRTSLに沿うようにデザインするのがポイントです。
密着した創傷が治癒する過程を一次治癒、皮膚の欠損がコラーゲンで埋まって治る治癒方式を二次治癒といいます。一次治癒の方が傷あとは綺麗になります。ジグザグ切開では三角皮弁を正確に挿入して一次治癒をさせることが大切です。この際牽引する方向は三角形の中心線とは限りません。皮膚の行くべき行先に糸を牽引する必要があります。Z形成についても同様です。
縫合糸による傷あとをスーチャーマークといいます。糸で縛る強さが強いほど、線路のような跡が残ります。編み込んだ糸よりも、表面が平滑な糸(モノフィラメント糸)の方が針穴の跡は目立ちにくい性質があります。一般的には、吸収糸は吸収過程で炎症反応を起こすため、穴のあとが残りやすくなります。非常に綺麗に治って欲しい部分はモノフィラメントの細い非吸収糸で、目立たない部分については早期分解型の吸収糸を選択するのが良いと考えられます。
持続的に傷あとを圧迫することにより、瘢痕拘縮や傷あとの肥厚を抑制できると考えられています。合指症の術後では特にこのアフターケアーが重要となります。スポンジやシリコンのシートで圧迫を行いますが、通気性の良さや清潔面から、スポンジを好んで用います。指が太くなりやすい場合には、自着性包帯を用いた圧迫を推奨しています。