母指多指症の手術について

通常は尺側(小指側)にある母指を残します。ただし単純に橈側の母指を切除するだけではありません。残す母指の機能を獲得する処理が必要となります。

 

1950年代までは橈側にある母指を切除するだけの治療が行われてきましたが、1960年代になり、このような手術では残した母指に変形が生じることが分かりました。それから多くの解剖学的な研究が行われ、より生理的な解剖に戻す治療(再建手術)に変わりました。

 

再建手術では、①屈筋腱・伸筋腱を真ん中に位置させる、②屈筋腱と伸筋腱の間の結合を外す、③母指球筋(短母指外転筋・短母指屈筋)を付け直す、④骨のかたちを整える、⑤皮膚を延ばして指を開きやすくする、などの処置が行われます。どの処置が行われるかについては、母指多指症のタイプにより個別に判断します。

母指多指症の手術概要

二分併合法(Bihaut法)

残す指が小さい場合、また関節がふにゃふにゃして左右に曲がりやすい場合には、二つの指をうまく合わせて一つにする手術を行うことがあります。これを二分併合法またはBilhaut法といいます。この方法は(1)非常に小さい母指でも二つを合わせることで、健常側と同じ大きさの母指を作ることができる、(2)真っすぐで丈夫な母指をつくることができる、メリットがありますが、一方で(3)爪に縦スリットが残ることがある、(4)傷あとが目立ちやすい、(5)太くなりすぎることがある、(6)IP関節の可動域に制限が生じる、などのデメリットもあります。手術ではこれらのデメリットの発生を最小限にする工夫が必要があり、非常に繊細な技術が要求されます。例えば、爪を平らにする技術、傷あとが母指の背側に残らない切開線の工夫、併合する骨量の調整などが挙げられます。

 二分併合法は結果にばらつきがでやすく、修正のため再手術が必要となることがあります。背側についた大きな傷あとや母指全体の変形については後々修正が難しく(「母指多指症の修正手術」の項に記載)、この方法の経験が乏しい医師は行うべきではありません。

二分併合法(Bilhaut法)