母指多指症の手術とその術後経過

おことわり

母指多指症の手術をより深くご理解頂くため、ここでは手術前と手術後の写真を掲載しております。写真につきましては、すでに手術を受けられたご家族様から「これからの方々のために」というご厚意により掲載させて頂いております。写真の複写や転載などの無断利用については固くご遠慮くださいますようお願い申し上げます。

 

初回手術では整容面に配慮しながら、力学的均衡を再獲得する再建術をおこないます。

初回手術はとても重要です。外科医の間で手術内容および質に大きな差があります。

先天異常手の解剖に関する造詣、バイオメカニクスへの理解、それらを基にした骨軟部の再建技術は、外科医の間で異なります。切開線や皮弁デザインの能力、縫合技術、術後の創傷管理能力は整容的結果に影響します。

 

特に以下のタイプでは、注意が必要です。

 

(1)Ⅳ型の橈側偏位型や、Ⅳ型のふたつの曲がった母指がV字型の形を成す型では、高い再建外科技術と経験を必要とします。Ⅴ型、Ⅵ型では母指内転とMP関節の不安定性が問題となります。

これらは、先天性手疾患を専門とする手外科医により手術されるべきタイプです。

 

(2)Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型の術後では、指の先細りや、爪周囲の非対称な形態、指紋皮膚の背側への露出、背側の直線的瘢痕が問題となります。

この問題を解決するため、それぞれの指から必要な部分を組み合わせて、自然な大きさで、かつ対称的で丸みのある形態の母指を再建する、精密な手術をおこなっております。

 

ここではワッセル分類(母指多指症の分類の項を参照)に準じて、橈側の母指が発生する位置で高位ⅠからⅥまで分けております。

骨の高位Ⅰ

末節骨の先で分かれている場合は橈側と尺側の爪が癒合して、あたかも1枚の幅広い爪のように見えます。手術では尺側の母指を残しますが、基節骨が太い場合には基節骨の減量や併合も必要となります。整容面では傷あとを背側に残さないこと、爪のかたちを対称にすること、指先の橈側をふくよかにすることを目標にデザインをします。


骨の高位Ⅱ

IP関節よりも指先側で分かれている場合は母指球筋の処理は必要ありません。末節骨の傾きや爪の大きさ、対称性などを考慮して、尺側母指を残す手術か二分併合法かを選択します。爪が大きくかたちが対称である場合には、尺側(小指側)を残します。橈側の靭帯は橈側の母指から頂きます。レベルⅠと同様に、整容面では傷あとを背側に残さないこと、爪のかたちを対称にすること、指先の橈側をふくよかにすることを目標にデザインをします。

母指多指症 レベルⅡ 手術前と手術後

骨の高位Ⅲ

基節骨の先で分かれている場合は爪が小さく、かたちが非対称なことが多く、二分併合法の適応を検討します。併合した爪のつなぎ目は次第に目立ちにくくなりますが、目立つ場合には修正手術をすることがあります。基節骨が太い場合には、基節骨も併合します。高度な技術が必要となりますので、母指多指症を専門とする医師以外には勧められません。

母指多指症 レベルⅢ 手術前と手術後

二分併合法:二つの母指の大きさが同じ症例には二分併合法が適しています。

それぞれの母指から爪や骨を半分ずつ頂いて一つの母指を再建しています。母指のサイズは反対側と同じになりました。

それぞれの母指の小さな爪を合わせることによって、大きく平らな爪を再建しています。


骨の高位Ⅳ

MP関節で分かれている場合は、母指球筋の処理が必要となります。尺側母指が真っすぐな場合は比較的手術はシンプルとなります。短母指外転筋は母指を対立させるべく、内旋するように機能させる必要があります。一方、関節が柔らかく、曲がっている場合には軟部組織の調整が必要となります。このような場合には専門とする医師に治療を受けることをお勧めします。たとえ指が曲がっていても、軟部組織の調整で真っすぐになることが多く、骨切りの必要性については慎重に判断します。両方の母指が極めて華奢な場合には二分併合法を適応することがありますが、爪や傷あとを綺麗にすることは非常に難しく、またIP関節の可動域低下や偏位(傾くこと)がみられることがあります。

母指多指症 レベルⅣ 手術前と手術後

片方の母指を再建する方法:一方の母指が他方の母指より大きい症例に適応します。この症例では尺側母指を再建しています。真っすぐにするために腱走行の変更や骨切りを行います。

片方の母指を再建する方法:二つの母指はほぼ同じサイズであり、関節は大きく傾いています。尺側母指の爪のかたちが対称的である場合には、尺側母指を再建することがあります。この症例では尺側母指を再建しています。真っすぐにするために腱走行の変更や骨切りを行います。

二分併合法:橈側母指と尺側母指がほぼ同じ大きさで、二つの母指の爪の間に斜めの皮膚のひだがある場合には、二分併合法が適しています。

それぞれの母指から爪や骨を半分ずつ頂いて一つの母指を再建しています。母指のサイズは反対側と同じになりました。

このような症例に対する二分併合法は極めて高度な技術を必要とします。この方法の経験が豊富な医師以外はすべきではありません。

 


骨の高位Ⅴ

母指が中手骨のレベルで分かれている場合は短母指外転筋が低形成となり、母指球筋のバランスが内転・屈曲にシフトします。そのためX線で第1中手骨の内転を確認する必要があります。第1指間の狭小を認めた場合には指間形成術を行います。短母指外転筋が短く、レベルⅣのような移行ができないことがあります。術後経過により骨切りや対立再建術を行うことがあります。レベルⅤ~Ⅵの症例数は比較的少ないため、これらの経験が豊富な医師に治療を委ねることをお勧めします。

母指多指症 レベルⅤ 手術前と手術後

骨の高位Ⅵ

母指が最も手関節に近いレベルから分かれています。この場合は短母指外転筋が非常に低形成となり、母指球筋のバランスが内転・屈曲にシフトします。そのためX線では第1中手骨が内転しています。尺側(小指側)母指はMP関節尺側の靭帯が緩んで橈屈しているケースを認めます。そのため、一見母指と示指の開きが良いように見えることがありますが、X線を撮ると写真のように基節骨と中手骨が真っすぐ並んでいないことがわかります。第1指間の狭小を認めますので、指間形成術を行います。母指内転筋の処理が必要となることがあります。短母指外転筋が極めて小さく、主に短母指屈筋を移行することになります。術後経過により骨切りや対立再建術を行うことがあります。レベルⅤ~Ⅵの症例数は比較的少ないため、これらの経験が豊富な医師に治療を委ねることをお勧めします。

母指多指症 レベルⅥ 手術前と手術後

橈側偏位型

ふたつの母指が両方とも橈側に傾くタイプです。橈側(母指側)の基節骨が小さく、尺側(小指側)の基節骨にも形態異常があります。IP関節の可動性は低く、腱の走行が橈側に偏っているため、尺側(小指側)の母指も橈側へ傾きます。母指球筋の移行と骨切り、腱の走行異常の修正を行います。特別に治療が難しいタイプであり、変形の再発によって再手術もまれではありません。経験豊富な医師による手術が望まれます。

二分併合法:この症例につきましては橈側母指と尺側母指がほぼ同じ大きさであるため、二分併合法を適応しております。

それぞれの母指から爪や骨を半分ずつ頂いて一つの母指を再建しています。尺側母指が大きい場合には、尺側母指を温存して、骨切りや腱の走行修正を行います。